はじめに
今回の記事では、ARKはなぜZoomを高く評価しているのか、についてまとめておきたいと思います。
Zoomはナスダック上場で、ナスダック100指数の構成銘柄です(S&P500指数の構成銘柄ではありません。)
Zoomの足元の株価と業績を「業績・株価比較チャート(米国株.com式)」でみると、以下のような状況です。
米国株は、今年の6月中旬(前々回のFOMCの後)を底値に、回復傾向にあります。グロース株中心のナスダック指数もリバウンドが顕著ですが、株価が順調に回復している銘柄と出遅れている銘柄の「2極分化」が激しくなってきています。Zoomの株価は、上のチャート通り、残念ながら後者の「低空飛行組」ですね。
Zoomは2021年7月、クラウドベースのコールセンターを運営する米ファイブ9を約147億ドルで買収することを発表、しかし同年9月、ファイブ9の株主の理解が得られなかったとして買収断念を発表しました。この買収を巡っては、Zoomの創業者が中国出身であることや開発拠点が中国にあることにより、米当局が安全保障上のリスクを懸念して調査していることも明らかになりました。
それでもARKKの中では、Zoomは組み入れ上位にずっと位置しています。
なぜARKはZoomを高く評価しているのでしょうか?
2022年6月にARKが自社サイトで公開したZoomの分析記事では、「Zoomの株価は2026年に1,500ドル」という予測をまとめています(2022年8月5日時点の株価は113.4ドルです。)
個人的には、コロナが収束気味の現在でも相変わらずZoomを頻繁に利用しています。これから世界中でワークスタイルが大きく変わっていくのでは、という予想も賛同できます。しかしポイントは、それだけではないようです。
次章でARKの分析を詳しくみていきましょう。
ARKがZoom株価を2026年に1,500ドルと分析
2021年実績 (ARK推定) | 2026年 弱気予想 | 2026年 強気予想 | |
ハイブリッド/リモート型のワークスタイルのグローバルナレッジワーカー(人) | 489M | 820M | 850M |
ハイブリッド/リモート型のワークスタイルのグローバルナレッジワーカーのうちZoomユーザー(人) | 212M | 250M | 320M |
Zoomユーザーの支払い | 36M | 90M | 180M |
ARPU | $113 | $310 | $430 |
総収入(10億$) | $4 | $30 | $70 |
調整後粗利益 | 71% | 87% | 89% |
調整後EBITDAマージン | 38% | 42% | 46% |
フリーキャッシュフロー・マージン | 35% | 25% | 27% |
企業価値/EBITD比率 | 24x | 20x | 20x |
時価総額(10億$) | $32 | $240 | $680 |
株価・CAGR | $108 | $700 (49%) | $2,000 (87%) |
ARKの予測では、全世界のハイブリッド/リモート型で仕事をするナレッジワーカーは、2021年の約51%から、2026年には約75%に上昇すると予測しています。
これらはある程度しっくりくる予測ですね。
しかしこれらの要素だけでは、Zoomの業績が急上昇するという予測の説明がつきません。実はARKの分析の最も重要なポイントは、「Zoomは企業の有料ユーザーが大幅に増加する可能性がある」と見ている点です。
ARKは、Zoomのユーザーの50%(20%と80%の中央値)が、2026年までに有料ユーザーになると予測しています。
つまりARKは、Zoomが企業向けのプラットフォーマーとして勝ち組になる可能性がある、と見ているといえます。Zoomは、(マネタイズに苦労しているTwitterなどの個人向けサービスとは異なり)基本的に企業向けのサービスなので、後述するコンタクトセンターのソリューションや、Zoom Phone、Zoom Chat、Zoom Roomsなどの新サービスが成功すれば、有料の企業ユーザーが大幅に増加する可能性がある、といえます。
しかし企業向けの市場では、巨人のマイクロソフト(Teams)やシスコ(WebEx)などとの競争があり、容易ではないともいえますね。とにかく毎回の決算で、状況をウォッチしていく必要があります。
Zoomの2022年Q1決算とZoomの新サービス
一方で、Zoomは企業向けの新サービスを開始しています。
冒頭に記載した通り、昨年9月、Zoomはクラウド・コールセンターを運営する米ファイブ9の買収を断念しています。
しかしその後、Zoomは、会話型AIスタートアップであるSolvvyの買収を発表、カスタマーサービスのコンタクトセンター(多様なチャネルを通じて顧客の問い合わせや要望に対応する窓口)向けのソリューション提供を開始しており、営業部門向けの通話分析ツールであるZoomIQも発表しています。
また、Zoomの企業向け新サービスには、コンタクトセンターのソリューションの他に、Zoom Phone、Zoom Chat、Zoom Rooms が含まれています。
Zoom Phoneとは?
Zoom Phoneは、Zoomアプリから、Zoomアプリ上で固定電話との発着信を可能にするもので、スマホがなくても、パソコンやタブレットなど様々なデバイスで電話のやりとりが可能になります。
Zoom Chatとは?
Zoomのチャット機能を使うことで、リアルタイムに質問の受け答えができたり、聞き逃しを防げる・より覚えやすい、参加者同士のつながりが生まれやすいなどのメリットがあり、ビデオ会議をより有意義なものにできます。
Zoom Roomsとは?
Zoom Roomsとは、会議室などに設置する据え置き型の、いわゆる「TV会議システム」です。Zoomミーティングなどの一般的なWeb会議ツールが主に「個人と個人」をつないで行われるのに対し、Zoom Roomsは「会議室と会議室」あるいは「会議室と個人」をつないでWeb会議を行うものです。
Zoomの今後の業績は、これらの企業向けのサービスがいかに伸びていくかにかかっているといえそうです。
Zoomの次回の四半期決算(2022年Q2)は、2022年8月22日(月曜)に公表される予定です。
以上、ご参考になれば幸いです。