半導体業界を根本から変えた台湾TSMCの創業者「モリス・チャン氏」

絶好調の台湾TSMC

世界最大の半導体ファウンドリである台湾TSMCは、先日の決算発表で;

  • 2021年の設備投資額を再度引き上げて、300億米ドルに増額
  • 今後3年間で約1000億米ドルを投資、最先端技術の生産能力や研究開発を強化

と発表しました。同社が複数年にわたる設備投資について発表するのは初めてで、同社は2023年以降も非常に堅調な成長を見込んでいるとみられています。

台湾が米中の覇権争いの中で戦略的な要所となっている中で、世界の半導体市場は今後一段とTSMC依存・一極集中を強めることになりそうです。

TSMCはどうしてここまで大きくなったのでしょうか?

TSMCが成功した最大の要因は、間違いなく、傑出した経営者であるモリス・チャン氏(張忠謀氏)の功績による、といわれています。

半導体業界を根本から変えた台湾TSMC創業者「モリス・チャン氏」

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モリス・チャン氏は1931年に中国浙江省に生まれ、1948年に香港に移住後、米国ハーバード大学に入学しました。2年生の時にMITに編入して機械工学の学士号・修士号を取得、1958年にテキサス・インスツルメンツ(TI)に就職しました。1964年にスタンフォード大学で電気工学のPh.D.を取得、TIでの25年(~1983年)のキャリアでは、TIの世界的な半導体事業を担当するグループ・ヴァイス・プレジデントまで昇進しました。

1985年(同氏が54歳のとき)、台湾当局から「世界に通じる半導体産業を台湾につくり出して欲しい」と要請され、台湾工業技術研究院(Industrial Technology Research Institute:ITRI)の院長に就任、国営の非営利団体の代表として、台湾の産業と技術発展を促進する役割を担うことになりました。

当初台湾当局は、垂直統合型の半導体メーカーの立ち上げを期待していましたが、台湾には設計技術が無いことから、モリス・チャン氏の考えは、米国のTI時代に培った実績と先見性から、製造だけを請け負う「ファウンドリ」に収束していきます。当時、ファウンドリは奇想天外といえる着想でした。

長年にわたりアメリカの半導体産業で活躍していた同氏は、インテルなどの多くの大企業に出資要請しましたが、多くの海外企業はIDM(垂直統合型)の生産プロセスに依拠しており、ファウンドリには発展の余地がないと見ていました。しかし、オランダのフィリップス社は、TSMCに出資することを決めました。フィリップスは台湾政府との関係構築や、東アジアでの生産拠点構築にメリットがあるとみたためです。

1987年2月にTSMCが設立、TSMCに対する台湾政府の出資比率は48.3%、フィリップスは27.5%でした。TSMCはフィリップスからの資金の供与のほか、フィリップスから最新技術を獲得し、また特許授権協議によってフィリップスの特許の使用が認められ、TSMCの競争力は大幅に向上しました。

フィリップスは、TSMCの発展に極めて重要な役割を果たしたことがわかります。

その後、フィリップスは経営不振によってTSMCの持株を手放すことになります。しかしTSMCと、最先端露光装置の100%シェアを有するASML(1984年にフィリップスとASMインターナショナルという会社が50%ずつ出資して設立)は、現在、世界の半導体サプライチェーンの頂上に君臨しています。

その後、1990年代に米国シリコンバレーで半導体設計を専門に行う「ファブレス」が次々と誕生、ファウンドリのTSMCとファブレス企業が、相乗効果を生み出して業界が激変していきました。現在、世界でファブレスは1000社を超えており、もしモリス・チャン氏がファンドリを始めなかったら、現在の世界的な半導体市場は存在しなかったといわれています。

モリス・チャン氏は、世界の半導体業界を根本から変えてしまった稀代の経営者です。

なお、昨日の日経に、モリス・チャン氏へのインタビュー記事が掲載されています。(参考文献2)

(抜粋)
半導体不足が続き、各国政府の間では現在、TSMCなど台湾企業の誘致が活発化している。モリス・チャン氏はこうした各国の動きを発言でけん制し、台湾での生産の重要性を訴えた。
TSMCは昨年、米側の強い要請を受け、アリゾナ州に海外初の先端半導体の工場進出を決めた。現在建設中で総投資額は当初予定していた120億ドル(約1兆3000億円)を大きく上回る見通し。コストが大きな課題として浮上している。張氏も「(米政府から)短期的に補助金をもらっても、長期的なコストは賄えない」と指摘した。
米大手インテルについては「彼らは台湾のファウンドリ(受託生産)ビジネスが今、こんなに重要になるとは思わなかったはずだ」と指摘した。「TSMCを1987年に創業する際、出資を求めたが見下されて断られた。30年たちインテルは今ごろ、TSMCと同じビジネスに参入すると発表したが、それは思いもしなかったことだろう」と皮肉った。
張氏は米テキサス・インスツルメンツ(TI)で20年以上勤めたのち、TSMCを創業。長く経営を率い、2018年6月に完全に引退した。

日本が世界の半導体競争で勝てなかったのは、モリス・チャン氏のような経営者が出てこなかったから、ということでしょうか。

ご参考になれば幸いです。

(参考文献)
参考文献1:モリス・チャン(出所:WikiPadia
参考文献2:台湾TSMC創業者「米国はコスト高」 誘致活動をけん制(出所:日経
参考文献3:台湾TSMCを創業したモリス・チャンの驚きの物語(出所:微細加工研究所
参考文献4:東芝メモリ売却劇、外為法違反適用は「愚策」(出所:微細加工研究所
参考文献5:台湾積体電路製造(TSMC)における発展の謎を探る(出所:九州産業大学経済学部 朝元照雄教授)

コラム
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