はじめに
今週の木曜日9月8日に、ECBの政策金利発表がありますね。
今回のECBでは、利上げ幅が50ベーシスポイントになるのか、過去に一度もない75ベーシスポイントになるのかが、市場から注目されています。
それにしてもECBは、きわめて厳しい状況に直面していますね。エネルギー危機、その結果生じている歴史的なインフレ、迫り来るリセッション懸念、と難題が山積しています。
ロシア国営の天然ガス企業ガスプロムは、2日、ロシア産ガスを欧州に運ぶパイプライン「ノルドストリーム」について、保守点検に伴う3日間の停止後も再開しないと発表しました。
ユーロドルはパリティ(1ドル=1ユーロ)の攻防も遠のいてしまい、今は0.98台まで売られています。
そして、今最も注目されている市場が、欧州の天然ガス価格ですね。
欧州の天然ガス価格の代表的な指標として、オランダの「TTF」や英国の「NBP」がよくニュースにでてきます。
今回の記事では、この「TTF」と「NBP」について、まとめておきたいと思います。
下のチャートは、NYMEXに上場している3つの天然ガス先物である、オランダの天然ガス先物「TTF」(赤色)、英国の天然ガス先物「NBP」(青色)、そして米国の「ヘンリーハブ天然ガス先物」(グリーン色)を2021年年初を基点に相対比較したものです。
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米国の天然ガス価格は上昇はしているものの相対的に変動は小さく、それと比べて欧州の天然ガス価格は異常な上昇や大幅な価格変動に見舞われており、中でも「TTF」の方が「NBP」よりも高騰が大きくなっていることがわかりますね。TTFは、2021年年初と比べて、一時は17倍、現在は11倍台で推移しています。
そもそも原油と違って、天然ガスは、地域ごとに価格指標が存在します。
これはなぜでしょうか?
これは、石油と異なり、天然ガスは長距離輸送するのが難しいためですね。天然ガスを液化してタンカーに入れるには、ガスを華氏 -260 ℉(摂氏-162℃)まで冷却する(体積は1/600になる)必要があり、大きなコストがかかります。このため、天然ガスは世界的に統一的な価格指標がなく、地域的な価格指標が存在することになります。
欧州の天然ガス価格指標であるオランダ「TTF」と英国「NBP」は、なぜ乖離するのか?
天然ガスは長距離輸送が難しいいために、米国と欧州で異なる価格指標が存在することはわかりました。
それでは、同じ欧州のなかで、なぜオランダの「TTF」と英国の「NBP」が最近大きく乖離しているのでしょうか?
これは、欧州の中でも、ドイツ周辺と、英国・フランス周辺では天然ガスをめぐる環境が異なるためです。
英国やフランスなど、NBPが天然ガスの価格指標となっている地域は、欧州の主要なLNG基地が集中しているため、ロシアからの天然ガス供給が減少しても代替でLNGを調達しやすい環境にあります。
一方、ドイツやオーストリアなど、TTFが天然ガスの価格指標となっている地域は、LNG基地の配備が進んでおらず、LNGを受入れるキャパシティが限られています。このためTTFはロシア産天然ガスの供給懸念によって、急騰や価格変動がより大きく変動する結果となっています。
現在ドイツでは、浮体式LNG貯蔵再ガス化設備(FSRU)を設置することでLNG受入れ設備の拡充を進めていますが、稼働開始にはまだ時間を要するため、ロシア産天然ガスへの依存はまだ高い状況です。
オランダの天然ガス「TTF」とは?
オランダの天然ガス「TTF」は、「Title Transfer Facility」(所有権移転施設)の略で、オランダにおける天然ガスの仮想取引所です。
TTF は、 オランダのガス伝送システム・オペレーターのGasunie の子会社である Gasunie Transport Services B.V.によって運営されています。取引開始以来 20 年間で、TTF での取引は指数関数的に成長し、英国の天然ガス取引所であるNBP)を追い抜き、欧州最大の天然ガス取引所となっています。
英国の天然ガス「NBP」とは?
英国の天然ガス「NBP」は、 National Balancing Point」の略で、英国における天然ガスの仮想取引場所です。NBPは、欧州において、TTFに次ぐ2 番目に流動性の高いガス取引所です。
なおオランダの「TTF」と英国の「NBP」は共に仮想取引所であり、この点で実際の物理的な場所がある米国のヘンリーハブとは異なります。
以上、ご参考になれば幸いです。