米国の中央銀行(”物価の番人”)であるFRBは、インフレターゲットの対象として、「CPI(消費者物価指数)」ではなく、「PCEデフレーター(特にPCEコアデフレーター)」を重視する、と言われています。でもマーケットはCPIの方をより注目しているように見えます。
そもそも、米国のPCEデフレーターとは何で、CPIとはどのような違いがあるのでしょうか?
PCEデフレーターとは何か?
PCEデフレーター(PCE deflator, PCE price deflator, PCE price index, PCEPI)とは、米商務省経済分析局(Bureau of Economic Analysis: BEA)が毎月下旬に発表する物価指数で、GDPの構成項目の一つである個人消費支出(Personal Consumption Expenditures)を算出する際に、物価変動による部分を除くために使われる物価指数です(名目個人消費支出をPCEデフレーターで割ることで実質個人消費支出が算出されます)。
米商務省経済分析局(BEA)が公表する経済統計で最も注目されるものは、GDPです。
個人消費支出はそのGDPの中の一項目で、さらにPCEデフレーターはその個人消費支出の調整に使われている物価指数、ということですね。
PCEデフレーターのうち、季節性の高い食品とエネルギー価格を除外したものを「PCEコアデフレーター」と呼び、PCEデフレーターと同時に発表されます。
FRBは、この「PCEコアデフレーター」を最も重視しており、米国のインフレターゲットの対象として利用され、年8回のFOMCのうちの4回で示されるFOMC参加メンバーによる経済見通し「FOMC Projection」において、物価見通しの対象として使用されています。
(参考)June 16, 2021: FOMC Projections materials, accessible version
一方、米国のCPI(消費者物価指数)は、米労働省労働統計局(Bureau of Labor Statistics: BLS)が毎月中旬に発表している一般的な物価指数です。
PCEデフレーターとCPIの違い
下表は、米国PCEデフレーターと米国CPIの違いをまとめたものです。
PCEデフレーター | CPI | |
発表元 | 米商務省経済分析局(Webサイト) | 米労働省労働統計局(Webサイト) |
内容 | GDPの一項目の個人消費支出の調整に使われている物価指数 | 一般的な消費者物価指数 |
調査対象の範囲 | より広い | より狭い |
基礎データの対象 | 企業調査による小売販売データ 全国を対象 | 消費者調査による消費者購買データ 都市部に限定(全消費者の約8割) |
発表の頻度 | 毎月、個人支出・個人所得等と同時に発表されるほか、四半期GDP発表時に四半期ベースの値を発表 | 毎月 |
代替効果の調整 | 新商品や価格変化などによって生じた代消費行動の変化について、代替品などによる行動変化を調整する | 調整は行われない |
対象品目 | 対象品目は柔軟に入れ替え | 対象品目は固定 |
発表のスピード | より遅い(毎月下旬) | より早い(毎月中旬) |
水準 | より低くなることが多い | より高くなることが多い |
FRBのターゲット | よりリアルに実際の物価動向を反映する物価指数として、食品とエネルギーを除外したPCEコアデフレーターを最も重視 | ー |
上記のように、PCEデフレータとCPIはそれぞれ長所と短所があります。
FRBが政策決定のために重視しているのはPCEデフレータの方ですが、株式市場や為替市場がより注目するのはCPIの方です。これの最大の理由は、「発表の時期が早いため」だと考えます。情報の網羅性と適時性はトレードオフになることがあります(日本の有価証券報告書と決算短信の関係も、その例だと思います。)が、その場合、適時性が優れている方、つまり早い方が注目度が高くなりますね。
最近は、インフレの状況がマーケットの主要な関心の一つなので、CPIの発表の日はとてもボラティリティが高くなりますね。
以上、ご参考になれば幸いです。