はじめに
米国株をセクター別に調べていると、米国株の「不動産セクター」に疑問をもつことはないでしょうか?
米国株の不動産セクターの上位銘柄はREITばかりが並んでいて、日本のいわゆる「不動産会社」が上位にないですね。
そもそも日本では、株式とREITが別の扱いなので、株式の不動産セクターにはREITが出てきません。
この日米の違いは、なぜでしょうか?
米国株の不動産セクターの上位銘柄は、REITばかり
まず米国株の不動産セクターの上位10社をみてみましょう。
この10社はすべてREITです。
首位のプロロジスや2位のアメリカンタワーは、時価総額が1,000億ドルを超えており、S&P500構成銘柄のなかでも70位台に位置する巨大企業です。(時価総額でみるとこの2つのREITは、日本一の不動産会社である三菱地所の約5倍くらいの規模です。)
順位 | ティッカー | 社名 | 時価総額 (Billドル) |
1 | PLD | Prologis Inc. | 107.5 |
2 | AMT | American Tower Corporation | 106.7 |
3 | CCI | Crown Castle International Corp | 72.4 |
4 | PSA | Public Storage | 62.3 |
5 | EQIX | Equinix Inc. | 60.2 |
6 | SPG | Simon Property Group Inc. | 45.9 |
7 | DLR | Digital Realty Trust Inc. | 38.6 |
8 | O | Realty Income Corporation | 37.8 |
9 | WELL | Welltower Inc. | 35.3 |
10 | SBAC | SBA Communications Corp. | 33.6 |
なお、米国株の不動産セクターには、REITではない銘柄もあります。
例えば、不動産サービスのCBREグループ(ティッカー:CBRE)や、不動産テックのトップ企業Zillow Group Inc.(ティッカー:Z)などは、不動産セクターの企業ですが、REITではないですね。
日本では、REITが株式とは別の扱いになっている
次に日本の場合をみてみましょう。
日本株の不動産セクターの上位銘柄は以下の通りです。(2022年2月22日時点)
順位 | 証券コード | 社名 | 時価総額 (10億円) | 時価総額※ (Billドル) |
1 | 8802 | 三菱地所 | 2,492 | 21.6 |
2 | 8801 | 三井不動産 | 2,456 | 21.3 |
3 | 8830 | 住友不動産 | 1,702 | 14.8 |
4 | 3003 | ヒューリック | 794 | 6.9 |
5 | 3291 | 飯田グループホールディングス | 648 | 5.6 |
6 | 3288 | オープンハウスグループ | 628 | 5.4 |
7 | 3231 | 野村不動産ホールディングス | 513 | 4.4 |
8 | 9706 | 日本空港ビルデング | 502 | 4.3 |
9 | 3289 | 東急不動産ホールディングス | 468 | 4.0 |
10 | 8804 | 東京建物 | 372 | 3.2 |
※115円/ドルで換算したドル建て概算額です。
日本では、REITは株式とは別の区分で扱われており、上位のREITは以下の通りです。(2022年2月22日時点)
順位 | 証券コード | 社名 | 時価総額 (10億円) | 時価総額※ (Billドル) |
1 | 8951 | 日本ビルファンド投資法人 | 1,100 | 9.5 |
2 | 3283 | 日本プロロジスリート投資法人 | 887 | 7.7 |
3 | 8952 | ジャパンリアルエステイト投資法人 | 833 | 7.2 |
4 | 3281 | GLP投資法人 | 775 | 6.7 |
5 | 3462 | 野村不動産マスターファンド投資法人 | 728 | 6.3 |
6 | 8984 | 大和ハウスリート投資法人 | 725 | 6.3 |
7 | 8953 | 日本都市ファンド投資法人 | 665 | 5.7 |
8 | 8954 | オリックス不動産投資法人 | 452 | 3.9 |
9 | 3269 | アドバンス・レジデンス投資法人 | 443 | 3.8 |
10 | 8960 | ユナイテッド・アーバン投資法人 | 413 | 3.5 |
※115円/ドルで換算したドル建て概算額です。
以下は東証のWebサイトです。米国株と違って、J-REITは株式とは別々になっていますね。
米国のREITは、優遇税制があるのはJ-REITと同じ。しかし内部運用も開発も可能な点で、J-REITと違って不動産事業会社に近い。一方、J-REITは投資ファンドに近い。
米国のREITとJ-REITの比較表を以下にまとめましたので、ご覧ください。
米国REITは1960年にスタートして60年以上の歴史があり、その長い歴史のなかで、税制が途中で改正されたことで性質が変容し、また投資対象も多様化がすすんでいます。一方、J-REITもスタートから20年を超え、順調に成長しているといえるでしょう。
米国REIT | J-REIT | |
開始年 | 1960年 | 2000年 |
投資対象 | オフィス インダストリアル・物流施設 小売 住宅 分散 ロッジ・リゾート 貸し倉庫 ヘルスケア 森林 インフラ データセンター 特殊 モーゲージ | オフィス 商業施設 住宅 物流施設 ホテル ヘルスケア |
根拠法 | 内国歳入法(Internal Revenue Code:IRC)第 856 条~第 860 条 | 投資信託及び投資法人に関する法律(通称「投信法」 「租税特別措置法」第 67 条の 15(投資法人に係る課税の特例) |
パススルーとなる税制上の要件 (導管性要件) | 90%超の配当その他 | 90%超の配当その他 |
外部運用管理・内部運用管理の別 | 内部運用管理が可能 (1986年以前は、外部運用管理のみ) 米国REITは、自社で投資の運用や資産の管理ができます。(以前はJ-REITと同様に不可能でしたが、1986年の内国歳入法改正によって、現在は7割以上の米国REITが自社で運用管理を行っています。) | 外部運用管理のみ可能 J-REITは、自社で投資の運用や資産管理ができず、外部に委託する必要があります。(J-REITが系列の不動産会社の事業と一体になっているのは、このためです。) |
事業の内容 | 賃貸事業だけでなく、開発事業も行える | 賃貸事業しか行えない |
従業員 | 雇用できる | 雇用できない |
以上から、米国のREITは「優遇税制のついた不動産事業会社」に近く、一方でJ-REITは器(ビークル)なので「投資ファンド」に近いということができます。
米国REITは、上記の通り1986年の税法改正によって内部運用・管理型の仕組みを導入して以来、不動産に投資する信託から、より不動産事業会社としての性質を強く帯びるようになり、現在は米国株の不動産セクターの上位にならぶほどREITが成長しています。
※なおREITの税制の要件は、日米であまり差異がありません。
- 持分保有要件:発行済の投資口が一定数の者によって所有されていること(公衆性を守るため)
- 非同族会社要件:同族会社に該当していないこと(持分保有の分散性を守るため)
- 資産要件:一定割合以上の資産は不動産等に限定される
- 支配禁止要件:他の法人の持分を一定数以上保有してはならない
- 配当要件:これがいわゆる「90%配当要件」です。その年の配当支払額がその年の「配当可能利益」の 90%を超えていること
税金が優遇されるというよりも、正確には「配当が損金になる」と言ったほうが正確です。たとえば95%配当して(他の要件も満たすと)残り5%だけが課税されます。
以上、ご参考になれば幸いです。