アップルの提携先の憶測をめぐる、自動車メーカーの株価の動き
まず、以下のチャートをご覧ください。
ヒュンダイ(韓国証取:005380)、起亜モーターズ(韓国証取:000270)、日産(7201)、マツダ(7261)、フォルクスワーゲン(VOW)、フォード(F)のパフォーマンスを、2020年の年初から比較したものです。
2021年1月8日:ヒュンダイと起亜の株価が急騰
年明け早々の2021年1月8日(赤い垂直線)が大きな変化点になっています。この日、コリア・エコノミック・デイリー紙が「アップルとヒュンダイが協議中」と報道したことで、韓国証券取引所のヒュンダイとグループ会社の起亜モーターズの株価が急騰しました。
2月5日:ヒュンダイと起亜の株価が再度急騰
複数メディアが「アップルとヒュンダイがアップル・カー生産の提携に向けて交渉が前進している」と報道、生産は起亜の米国工場と見込むアナリストの憶測も受けて、ヒュンダイと起亜の株価がふたたび急騰しました。
2月8日:ヒュンダイと起亜の株価が急落
「ヒュンダイとアップルとの交渉は打ち切り」との報道によって、ヒュンダイの株価は6%以上下落、起亜の株価は15%以上下落しました。
2月15日:日産の株価が下落
英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)が、「アップルが過去数カ月間に日産に接触したが、ブランド戦略を巡る意見の相違で、議論は日産の上級管理職レベルに進まず協議は打ち切られた」と報じました。日産の広報担当者は「アップルと協議はしていない。日産はCASE時代における自動車産業の変革に向けて、他企業や団体とのパートナーシップやコラボレーションの活用に関して常にオープンである」と述べました。この日、日産の株価は、一時4.3%安まで下落しました。

以上、投資家は振り回されている感じですね。
バロンズの最新号では、今後について以下のように予想しています。
出所:Apple’s Search for an Autonomous Vehicle Partner Continues. Who It Could Choose(バロンズ)
(ヒュンダイと起亜の株価が急落する前日の)2月7日、投資会社ウェドブッシュのベテランアナリスト、ダニエル・アイブスは、アップルが今後3〜6か月以内に提携先を発表する可能性は85%。アイブスはヒュンダイを最も可能性の高い選択肢として選び、(アウディとポルシェを製造する)フォルクスワーゲングループも候補として挙げました。ヒュンダイが除外されたことで、投資家はフォルクスワーゲングループに注目しなければなりません。同氏はまた、候補としてテスラとフォードも挙げています。
さらに、先週2月14日のロイターに、フォルクスワーゲンのデュースCEOのコメントがに出ています。
出所:Volkswagen CEO Diess ‘not afraid’ of an Apple electric car(ロイター)
同CEOのコメント「自動車産業は、一気に情勢を逆転させることができる典型的なテック・セクターとは異なります。アップルはそれを一夜にして実現することはありません。」
アップル・カーの提携先(製造委託先)のメリット・デメリットは何か?
ヒュンダイでも日産でも、長い社歴をもつ自動車メーカーがアップルから提携を打診された場合には;
- 既存の経営戦略との整合性
- ブランド価値への影響・毀損のリスク
- 経営成績・財政状態への影響
- 株主への説明責任
など、様々なマイナス要素が考えられそうです。

まず第一にアップルと提携しても、期待するアップルのノウハウは全く得られず、得られるのは「生産数量の増加」のみであるのは、iPhoneのときと同様に容易に想像できます。アップルが探しているのは、コラボレーションの相手ではなく、単なる「製造委託先」でしょうからね。
それもでもやはり提携のメリットが大きいと考えられる候補先として、中規模のサイズで、アップルとの提携が成長の起爆剤になりそうな自動車メーカーの名前が候補として挙がっています。ヒュンダイや日産をはじめ、BMWやマツダなどはこのグループに入りそうです。
そもそも、中規模の主要メーカーとしては、上記のようなマイナス要素があるものの、最終的にライバルメーカーとアップルが組む状況だけは避けたい、と考えるかもしれません。

バロンズの予想を参考に、欧州メーカーと、テスラ、フォードあたりを注目しておきたいと思います。
ただし、ヒュンダイと起亜の株価が、年初の急騰前の水準と比べて高いままであるのも気になります。