モデルナの株価は、まさにジェットコースター
モデルナは2010年設立の製薬ベンチャーで、Covid-19パンデミックの前は、承認された薬がまだ「ゼロ件」でした。
以下のチャートは、Covid-19パンデミックを挟んだ直近3年間の、モデルナの株価と業績の推移を示しています。株価は一時30倍以上に急騰、その後10倍程度まで下落しています。
まさにジェットコースターですね。
なおモデルナの決算発表(2021年4Q)は、今週木曜の2022年2月24日に予定されています。
モデルナの財務構造で最も注目すべきは、Covid-19ワクチンで得た莫大なキャッシュフローです。
(データ元:Yahoo Finance, 2022年2月21日)
MRNA:モデルナ | (比較) BNTX:ビオンテック | |
時価総額 | 577億ドル | 374億ドル |
予想PER | 5.0 | 4.6 |
営業利益率 | 64.3 | 74.2 |
営業キャッシュフロー | 115億ドル | 13.4億ドル |
さて、コロナ後のモデルナは、どのようなワクチンを開発していくのでしょうか?
遺伝子配列さえわかれば、短期間で設計ができるmRNAワクチン
モデルナやファイザーのCovid-19ワクチンは、「メッセンジャーRNA(mRNA)」を使った新しい創薬手法に基づいており、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の設計図となるmRNAを含んだワクチンです。このワクチンを接種し、mRNAがヒトの細胞内に取り込まれると、このmRNAを基に、細胞内でスパイクタンパク質が産生され、そのスパイクタンパク質に対する中和抗体産生や細胞性免疫応答が誘導され、新型コロナウイルス感染症の予防ができます。
通常の開発では数年かかると言われる感染症ワクチンの領域において、Covid-19のワクチンは、ウイルスの配列決定からわずか2カ月以下で臨床試験に入るなど、従来のワクチンでは考えられないスピードで開発されました。
遺伝子の配列さえ分かればどんなタンパク質に対するmRNAも短期間で設計可能であるため、原理的に全てのタンパク質がmRNA医薬のターゲット分子となり得ます。そのため今後、今回のパンデミック対応だけでなく、他の様々な疾患を標的にしたmRNAワクチンの開発が期待されています。
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モデルナが、帯状疱疹・ヘルペス・癌に対するワクチン開発プログラムを発表
モデルナは、以前に、
- サイトメガロ・ウイルス(CMV)
- エプスタインバー・ウイルス(EBV)
- HIV
のワクチンに関するプログラムを発表しており、それらはすべて臨床試験中です。これにつづくかたちで、同社は2022年2月18日、
- 帯状疱疹(たいじょうほうしん※)
- ヘルペス
- 癌
に対するワクチン開発プログラムを発表しました。
データ元:モデルナIRサイト、2022年2月18日
- mRNA-1608 is a vaccine candidate against Herpes simplex virus (HSV:ヘルペスウイルス)
- mRNA-1468 is a vaccine candidate against varicella-zoster virus (VZV:帯状疱疹ウイルス) to reduce the rate of herpes zoster (shingles)
- mRNA-4359 is a new checkpoint cancer(癌) vaccine
今回発表したワクチンの標的のなかで、特に有望とされる帯状疱疹ワクチンには、巨大な市場があると見られています。
帯状疱疹ワクチンプログラムは、モデルナとメルクの間の現在終了しているパートナーシップにそのルーツがあります。 2020年に、両社は、ワクチンの以前のバージョンが、グラクソ・スミスクラインの大ヒット作「Shingrix」と同じ免疫応答を非ヒト霊長類に誘発したことを示す論文を発表しました。帯状疱疹ワクチン接種は、グラクソにとって巨大な市場であることが証明されています。米国疾病予防管理センターのワクチン諮問委員会は、50歳以上の成人および19歳以上の免疫不全の成人にグラクソのShingrixを推奨しています。同社は2021年にShingrixの売上高が23億ドルであると報告しています。
引用元:Moderna Is Targeting Shingles, Herpes, and Cancer. The CEO Is Looking Beyond Covid.
バロンズ
上記バロンズのインタビュー記事の中で、モデルナのバンセルCEOは、上記論文を引用して、同社のmRNAワクチンが帯状疱疹に効果があることに自信をもっており、低リスクとみられる開発対象であるため、大規模なキャッシュを投入して、迅速にワクチン開発をすすめる予定としています。
「帯状疱疹(たいじょうほうしん、Herpes zoster 、shingles)」とは、神経に潜んでいた「水痘・帯状疱疹ウイルス(Varicella Zoster Virus:VZV)」というヘルペスウイルスの一種が活性化することで発症する皮膚疾患です。体の左右どちらか一方に出るのが一般的で、ピリピリとした痛み・赤い斑点内の水ぶくれを伴う皮膚症状が3週間ほど継続します。
このウイルスは水疱瘡(みずぼうそう)を引き起こすウイルスで、日本人の多くは幼少期に水疱瘡に罹患しているため、日本の成人の9割以上がこのウイルスを保有しています。様々な免疫低下が帯状疱疹リスクとなりますが、加齢の影響が大きく、50歳以上になると発症率が急増し、帯状疱疹患者の約7割が50歳以上です。(引用元:武田薬品)
なお、承認されたヘルペスワクチンはこれまでになく、同社は、性器ヘルペスを引き起こすHSV-2ウイルス、口唇ヘルペスを引き起こすHSV-1に対するワクチンを開発予定です。
また、チェックポイント癌ワクチンと呼ばれるワクチンは、同社が現在開発中の癌ワクチンの1つです。他の免疫腫瘍薬と同様に、腫瘍細胞を攻撃するためにT細胞を刺激するもので、皮膚がんと肺がんでこの薬がテストされる予定です。
モデルナのパイプライン(新薬候補)
モデルナのパイプライン(新薬候補)は、2022年2月21日現在、以下の通りです。
データ元:モデルナWebサイト
上述の2月18日に発表した帯状疱疹ワクチン(mRNA-1468)、ヘルペスワクチン(mRNA-1608)、および癌ワクチン(mRNA-4359)も既にこのパイプラインに記載されています
※CMVはサイトメガロウイルス、EBVはエプスタインバーウイルスの略です。
以上、ご参考になれば幸いです。