(1)決算発表で見かける「オーガニックな成長:Organic Growth」とは何か?
(2)米国企業の決算で見かける「月末日でない決算日」はなぜか?ポイントは「4-4-5」・「4-5-4」
(3)米国企業の決算で見かける「Non-GAAP」とは何か?経営陣と同様に経営成績を分析評価してみよう
(4)米国企業の決算で見かける「CAGR」(年平均成長率)とは何か?【計算機付き】
(5)決算発表でみかける「セーフハーバー条項(”Safe Harbor” Statement)」とは何か?
(6)SaaS企業の決算で見かける「ARR(Annual Recurring Revenue)」「RPO(Remaining Performance Obligation)」とは何か?
(7)月次業績(月次売上高等)を任意開示している米国株銘柄
この記事は、米国株「決算発表の見方」特集の一環で書いています。
アドビの決算発表をみてみよう
下記は、アドビ(ADBE)が2021年6月17日に発表した、2021年度2Q(3月~5月)決算発表のプレスリリースの一部です。
アドビの年次決算は「11月末」で、結構珍しいです。他に11月決算の主要な企業は、アメックスとブロードコムくらいです。
- デジタルメディアのARR(Annual Recurring Revenue)は、対前四半期で5.18億ドル増加して、112.1億ドル
- RPO(Remaining Performance Obligation)は、対前年同期比で23%増加して、122.3億ドル
と開示されています。
この「ARR(Annual Recurring Revenue)」「RPO(Remaining Performance Obligation)」とは何でしょうか?
ARR(Annual Recurring Revenue)とは?
「ARR(Annual Recurring Revenue)」とは、日本語では、年間経常収益または年間定額収益と呼ばれ、「毎年決まって得られる1年間分の収益」を意味します。ARRは、初期費用などの一時的な収入は除外します。
年間契約のサブスクリプションビジネスを前提にすると、ARRは、
で計算します。
ARRを月単位で計算するのが「MRR(MOnthly Recurring Revenue)」で、計算方法は同じです。この場合のARRは、MRRの12倍とします。
音楽配信サービスなどの月単位契約では、毎月新規契約や解約が発生するため、月単位のMRRによって管理し、年間契約による企業向けのSaaSを提供するビジネスではARRを使用して管理します。
アドビ製品のサブスクリプションは、個人向けの月ごとの契約と、法人・個人向けの1年間ごとの契約が混在していますので、MRRとARRを併用して管理していると考えます。
ARR・MRRの値は、特にSaaSビジネス・サブスクリプションビジネスにおいて、成長性を測定する指標として重要視されています。
RPO(Remaining Performance Obligation)とは?
RPO(Remaining Performance Obligations)は、日本語にすると「残存履行義務」といいます。
こちらはARRよりも、より会計的な概念です。
近年、収益(売上高)を認識する会計基準が、世界的に整備されて、米国のGAAPでも新しい収益認識基準が使われています(米国基準ではASC 606と言います。IFRSでは15号)。
この基準の中で、収益を認識するときに、複数の段階に分けて、「履行義務を果たしたときに収益を認識する」というルールになっています。したがって、「(解約できないのに)まだ履行義務を果たしていない金額」が重要で、この金額は財務諸表に注記することになっています。
会計的にはObligation(義務)ですが、SaaSビジネス・サブスクビジネスでは、「契約済みで、まだ未計上の売上(将来計上される売上)」という意味です。
以上、決算発表を読むときのご参考になれば幸いです。